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東京地方裁判所 昭和25年(行)84号 判決

原告 関東商事株式会社

被告 関東財務局長

一、主  文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

二、事  実

一、請求の趣旨

被告が昭和二十五年六月二十一日関財金第四一八号により原告に対してなした同年同月二十二日より昭和二十六年六月二十一日までの業務停止命令を取り消す、訴訟費用は被告の負担とする、との判決を求める。

二、請求の原因

被告は昭和二十五年六月二十一日関財金第四一八号により、貸金業者である原告に対し、その業務が無尽業法第三条並びに貸金業等の取締に関する法律第七条に違反することを理由として同法第十三条第一項に基き、同年六月二十二日より昭和二十六年六月二十一日まで一ケ年間の業務停止を命じた。

しかしながら、右処分は次に述べるような理由により違法である。

(一)  貸金業等の取締に関する法律第十三条第一項によれば、大蔵大臣が貸金業者に対し業務停示を命じ得るのはその貸金業者が同法の規定に基く大蔵大臣の処分に違反した場合に限られることは明かである。しかるに本件においては何等大蔵大臣の処分はなされていないのであつて、これに対し直に業務停止を命じたのは違法である。

(二)  仮りに右の主張が理由なしとしても、原告の業務内容に対する被告の認定は誤つている。即ち本件業務停止処分の理由とするところは、「原告の行つている業務内容は、原告と契約者と金銭貸借債務弁済契約と称する契約を結び、契約者に対して裏書譲渡禁止の約束手形を振出し、爾後掛金表により日掛にて金銭を受入れ、手形の満期日に手形金額の支払いを行い、更に右手形の支払金と所定利息の合計額に達するまで日掛にて掛金をなさしめて回収を行うのであるが右業務方法は無尽業法第一条第二項の行為を内容とするものであつて同法第三条に違反し、又原告が貸付前に行う金銭の受入れは不特定多数者を相手とし且つ将来の一定期日に一定の対価とともに一定金額の金銭を給付すべきことを条件とするものであつて、貸金業等の取締に関する法律第七条の預り金に当り、同条の規定に違反する。」というのである。

しかし、無尽業法違反の理由をもつて貸金業等の取締に関する法律を適用して業務停止を命ずることはできないのみならず無尽業法第一条第二項の規定するところは業者において初めより何等の給付義務なくして相手方より一定の期間内掛金をなさしめその中途又は満了の際一定の金額を給付することを内容とするものであるに反し、原告の行つている業務方法は、最初約束手形を振出し手形債務を負担し、これに対する反対給付義務並びに手形金支払後の貸金に対する支払方法として掛金をなさしめて回収を計るものであつて、無尽業法の規定するところと全く異つているのである。たとえ裏書譲渡禁止の手形が流通性を欠くとしても、手形として有効であり振出人が手形金債務を負担する点においては何等異るところなく、これに対し相手方に反対給付義務を負わしめることは契約自由の原則からして何等差支ない。実際上原告振出の手形は裏書譲渡禁示の効力なく流通性を失わなかつたものである。

次に貸金業等の取締に関する法律にいわゆる預り金とは何等反対給付義務を負わずして金銭を預る場合をいうのであつて、原告の業務は前述のように掛金を受入れる前に既に手形金債務を負担しているものであるから同法の預り金には該当しない。又その金銭受入については個別的に契約を締結して手形を振出してなすのであるから不特定多数者を相手とするものではない。

いずれにしても原告の業務は何等法規に違反する点はないのであるから、被告のなした業務停止処分はその理由なき違法の処分たるを免れない。

三、被告の答弁

(請求の趣旨につき)原告の請求を棄却するとの判決を求める。

(請求の原因につき)被告が原告に対し、原告主張のとおりの業務停止処分にしたことは認める。その他の主張はすべて争う。

貸金業等の取締に関する法律第十三条の規定によれば大蔵大臣は貸金業者が同法の規定に基く大蔵大臣の処分に違反したときのみならず同法の規定に違反したときにも業務停止を命じ得ることは明文上明かである。

更に本件業務停止処分は貸金業等の取締に関する法律第七条違反を理由として同法第十三条によりなしたものであつて、無尽業法第三条違反を理由としてなしたものではなく、同条違反は単に事実を指摘したにとどまる。

原告の行つている業務内容は要約すれば、原告と契約者との間に締結された金銭貸借債務弁済契約によつて両当事者が負担した債務の履行という形で行われ、契約者は原告に対し一定期間掛金債務を負担し、原告は契約者に対し期間の満了又は中途において、掛金が一定額に達したことを条件として所定金額を給付すべき停止条件附債務を負担するのであつて、正に無尽業法第一条第二項所定の業務に該当すること明かである。更に被告が原告の業務を貸金業等の取締に関する法律第七条に違反するものと認めた理由は次のとおりである。

原告は右法律第二条第三項所定の貸金業者であつて、前述の如く金銭貸借債務弁済契約によりその業務を行うのであるが、その契約者は先ず申込書により申込をなすと同時に申込金を払込み、ついで契約書を作成する。この契約には日掛金五十円のA組と百円のB組の二種あり期間は何れも十ケ月であり、掛金と貸付金額の関係は予め計算された表に記載されて居り、A組は二ケ月以上B組は三ケ月以上掛金をすれば右の表に記載された金額の貸付を受ける。即ち原告は契約者に対し契約成立の際貸付期日に応じ右の表による金額を表示した貸付期日を満期とする裏書譲渡禁止の約束手形を振出し交付する。かくして契約者が所定の掛金を払込むと手形の満期に原告は手形金額相当の金員を契約者に貸付け手形を回収し、掛金総額を債権額とする借用証書を取り、これを公正証書に作成する。その後も前と同様の掛金を期間の満了まで続行して契約を終了せしめる。即ち右約束手形は原告が将来負うべき貸付債務の履行確保のため振出されたものであつて契約と無関係のものではない。又右借用証書は右契約に基く将来の掛金義務を明示するもので、公正証書はこの関係を特に明確な証拠力と不履行の場合の執行力とをもつて強く保証したものであつて、何れも従来の掛金債務を消費貸借債務に更めたものではなく、単に表示方法を変えたものにすぎず、契約者の負う義務は従前と同一の掛金債務である。従つて貸付後の掛金の支払も消費貸借債務の弁済という性質を有するものではなく、当初の掛金債務の履行というべきである。そして原告は契約者を外務員の勧誘等により広く募集していたのであり、不特定多数の者より金銭を受入れていたものである。これを前記法律に照せば正に同法第七条所定の預り金に該当する。かりに貸付後の掛金の支払が消費貸借債務の弁済であるとしても、貸付前の掛金の取立は同条所定の預り金に該当する。(立証省略)

三、理  由

一、被告が昭和二十五年六月二十一日原告に対し、原告主張のような理由により向う一ケ年間の業務停止を命じたこと、原告が貸金業等の取締に関する法律第二条第三項所定の貸金業者であることは当事者間に争がない。

二、次に貸金業等の取締に関する法律第十三条第一項は「大蔵大臣は貸金業者がこの法律の規定又はこの法律の規定に基く大蔵大臣の処分に違反したと認めるときは、当該貸金業者に対し期間を定めてその業務の停止を命ずることができる。」旨規定しているのであつて、大蔵大臣の処分に違反したときのみならず、同法の規定に違反したときにも業務停止を命じ得ることは文理解釈上疑のないところであり、この点に関する原告の主張は同条項の誤解に基くものというべく、その失当なることは多言を要しない。

三、よつて進んで原告の業務内容が右法律の規定に違反するものあるかどうかについて判断する。

成立に争のない乙第二乃至第九号証、証人細野猛、吉柳一郎、加藤義秋、久保歓三の各証言並びに原告代表者本人訊問の結果を綜合すれば、原告の行つていた貸金業務の内容は次の如くであつたと認められる。

原告は契約者との間に締結された所謂金銭貸借債務弁済契約によつて金銭の貸付を行い、右契約の内容は契約者は原告に対し所定期間所定金額の掛金債務を負担し、原告は契約者に対し所定金額の裏書譲渡禁止の約束手形を振出し、期間の満了又は中途において、掛金が一定の金額に達したことを停止条件として右の手形金支払債務を負担するものであつて、この契約には日掛金を五十円とするA組とこれを百円とするB組の二種あり、何れも期間は十ケ月とし、A組では二ケ月以上B組では三ケ月以上掛金を払込むとその期間に応じた金額の交付を受けることができるのである。即ち契約者は申込書(乙第二号証)により契約の申込をすると同時に申込金として三日分の掛金を払込み、これに対し原告は契約書(乙第三号証)を作成すると共に、契約者の希望する貸付時期を標準として掛金総額から一定の金利と手数料を差引き計算された表(乙第四号証)に基く金額(例A組三ケ月一万二千円、B組四ケ月二万五千円)を表示した右貸付時期を満期とする約束手形(乙第五号証)を振出して交付し、爾後契約者は日掛通帳(乙第六号証)により日掛金を払込み、約束手形の満期に前期の金額の交付を受け、その際契約書に保証人を附する外委任状(乙第八号証)によりこれを消費貸借の分割弁済契約として公正証書に作成しておき、その後も前と同様に掛金を期間満了まで続けて契約関係を終了せしめるものである。そして原告は宣伝広告又は外務員の勧誘により東京都及び神奈川、埼玉両県下に及び契約者を募集し、本件処分当時その数は凡そ千数百名に達していた。

右認定の如く原告の業務の根幹は金銭貸借債務弁済契約と称する無名契約にあるのであつて、右契約の主旨は要するに一定の給付金額を定め、一定の期間内に掛金を払込ましめ、その期間の中途又は満了のときにおいて、掛金者に対し金銭の給付をするものであつて、この業務は正に無尽業法第一条第二項所定の所謂みなす無尽に該当するものというべきである。たゞ原告の負担する給付義務が約束手形債務の履行という形式を採りその履行を確実ならしめている点にその特異性が存するということもできるのであるが、これにより前述のみなす無尽の本質に何等消長を及ぼすものではない。蓋しこの手形の振出は前認定のように、相手方の掛金債務の履行と密接不離の関係にあり、相手方はこの関係を無視してその有効性を主張し得ないものであるからである。このことは前記乙第三号証によれば右手形は裏書譲渡を禁止した流通性なき手形たることを原則としていることからしても窺うことができる。もつとも前記乙第五号証、証人加藤義秋、久保歓三の各証言及び原告代表者本人訊問の結果によれば、実際には原告の振出した手形は裏書譲渡禁止の文言を手形の裏面に記譲したためその効力を生じなかつたこと、又稀には裏書譲渡を禁止せずして振出した手形もあつたことが認められるが、これは原告の過失によりその予期せざる結果を生じたにとゞまり、かりに事実上そうであつたとしても契約の相手方との関係においては原告は前述の抗弁をもつて対抗できるものである。

ところで、本件業務停止の理由として掲げられた貸金業等の取締に関する法律第七条第一項は貸金業者が預り金をすることを禁止して居り同条第二項は預り金の定義として何等の名義をもつてするを問わず預金等と同様の経済的性質を有する不特定多数者からの金銭の受入をいうものとしている。その趣旨は金融政策上預金等一般公衆からの金銭の受入れは確実な基礎を有する正規の金融機関のみが取扱い、貸金業者は専ら自己資本又は近親者等の特定者から受入れた資金をもつて金銭の貸付を行うこととしたのであつて、貸金業者が金融機関の行うべき預金等の預り金をすることは国家の金融秩序を破壊し、公衆に不測の損害を蒙らしめる虞があるのでこれを禁止したものである。飜つて考えるに、原告の行つた前記金銭貸借債務弁済契約に基く金銭の受入は、前認定の如く一定の期間を定めて受入れた金銭を一定の対価と共に返還するという経済的性質を有するものであり、その相手方は不特定多数者と認められるのであつて、前記法条に所謂預り金に該当するものというべきである。この点に関する原告の主張は不特定多数者よりの預り金の解釈について独自の見解を主張するものであつて当裁判所はこれを採用しない。

原告は、相手方の負担する掛金債務は原告の手形債務に関する反対給付の性質をも帯びているからみなす無尽と性質を異にすると主張するのであるが、原告は当初約束手形を振出すだけで何等現実に金銭的出捐をするのではなく、却つて相手方において本来ならば将来手形金額の交付を受けた後に分割返済すべき金銭の一部をその交付前に予かじめ原告に交付するのであつて、この関係はあたかも無尽契約において無尽業者がまず無尽契約者より一定の掛金を徴し一定の期間経過後に一定の金額を給付することを約するのと同様であつて、その経済的構造において全く同一であり、ただ名称において手形債務の履行と無尽契約上の給付義務の履行との差異があるにすぎない。貸金業等の取締に関する法律第七条第二項が名義の如何を問わず金銭授受の経済的性質に着眼して規定した所以を考えると、原告の相手方より受領する金銭はまさに預り金であり、このような業務は無尽業者等正規の金融機関のみの行い得るところであつて、自己資本を根幹とすべき貸金業者に許されない業務というべきは明白であり、約束手形債務に対する反対給付なる名称に拘らず「預金等と同様の経済的性質を有する不特定多数者からの金銭受入」であることに変りはなく、前記第七条第一項に違反することは疑を容れないところというべきである。

又原告は約束手形の支払による金銭貸付後の掛金の受入は貸金債務の分割弁済であつて預り金に当らないと主張するもののようであるが、前記認定の如く契約者の負担する掛金債務は給付の前後を問わず不可分一体の債務と見るのが至当であり、或は貸付後の掛金は原告所論のとおり貸金債務の分割弁済と見られ得るとしても少くとも貸付以前の掛金の受入が預り金に該当することは疑ないところである。

四、結論として、原告の業務は以上説明したとおり無尽業法第三条に違反する無尽の無免許営業であると同時に、それはとりもなおさず貸金業等の取締に関する法律第七条に違反するものということができる。従つて同法第十三条第一項により同法の規定に違反したものと認めて原告の業務停止を命じた被告の本件処分は、適法であつて何等違法の廉はない。

もつとも、成立に争のない甲第二号証の停止命令には、その理由として、無尽業法第三条違反の点をも掲げて居り、同法違反の理由をもつて、業務停止を命じ得ないことは、原告所論のとおりであるが、同書面によれば、貸金業等の取締に関する法律第七条違反の理由による同法第十三条に基く処分であることが明瞭に看取されるのであつて、無尽業法第三条を掲げたことは、同条の免許あるにおいては、貸金業等の取締に関する法律第七条の禁止に触れないが、原告はその免許がないから同条第一項に違反するという趣旨の説明に外ならぬと理解せられる。ただその表現において足らざるものがあり原告主張のような疑いを生ずることは明らかであるが、これによつて右処分を違法ならしめるものではない。

よつて原告の本訴請求は失当としてこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 近藤完爾 和田嘉子 渡辺忠之)

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